(今日の話は、気持ち悪いよ。これを書いていて自分でも気持ち悪くなりました。)


以前にアパートの一階に住んでいたときの話なんだけど、その日も朝の6時に習慣どおりシャワーを浴びようとしたのです。
で、風呂場に入った瞬間、「ちゃぽん」という音と共にくるぶし近くまでの生ぬるい水に足が浸かりました。
びっくりして、足を引っ込めたのですが、良く見ると風呂場の床全体が廊下との敷居までの高さまで水浸しになっていたのです。
水中になにやらマリモ状のものがゆらゆらと漂っているのも散見されますが、幸いなことに水は敷居を乗り越えて廊下にまでは溢れてはいません。
なんだろうと首をかしげながらも次にトイレのドアを開けてみると、ここもやはり同じような惨状。
そして、一瞬にして事態を悟ったのです。
トイレの便器から汚水が大量に噴出した形跡があり、風呂場と同様にトイレの床面もやはり床上浸水状態だったのです。
風呂場の水に散在していたマリモ状のモノは、なにか。
それは、ほのかに茶褐色であり浅い水中にゆらりゆらりと浮遊していたのであります。
そう、トイレの汚水が風呂場にも溢れ返っていたというわけです。


うちのアパート、トイレと風呂場が背中合わせになっている間取りだったんだけど、便器、フロ桶、洗面台は一本の排水管に繋がっていたんだよね。
そしてその汚水管はアパートの5階から地下室まで真っ直ぐ垂直に繋がっていたのです。
だから、仮にその共同汚水管が何かの理由で詰まることになれば、詰まった個所のすぐ上の部屋のトイレや風呂場から汚水が溢れかえることになるというわけ。
パイプが詰まるのは大抵、地下室なので、そうすると一階のアパートの部屋から大量の(つまり5世帯分の)汚水が、さながら掘り当てられた温泉がごとく噴き出すことになるのです。


とにかく汚水・汚物をバケツに汲みだして、アパートの外に捨てに行きました。
雑巾とトイレットペーパーにて掃除して一段落するのですが、上の階で誰かが水を流すと途端にまた便器や配管の接合部分からあふれ出してくるのです。
潜水艦映画なんかでよく海水の圧力でもって潜水艦の内部のあちこちから水が噴き出してくるような場面があるでしょう、そんな感じですよ。
幸い朝の6時台は、バス・トイレを使用する住人は比較的少なかったのですが、7時を回ったころから俄然忙しくなってきました。
幾ら汲みだしても、あとからあとから溢れかえる汚物と戦い続けるしかなく、上階から聞こえる排水音の響きと共に便器のふちまで、あれよあれよという間に水面が上昇してくるのを何度と無く見ていると絶望感と無力感にとらわれるのでありました。
固形、液状、未消化のブツに加えて、融けた紙、生ゴミ、その他もろもろが物凄い悪臭のする生暖かい水と共にざあざあと溢れる様をなすすべくもなく眺めざるを得ない状況で、ほんと、泣きそうになりました。
とはいっても手をこまねいては、廊下や寝室までもが浸水してしまうことになるので、敷居の高さを汚水が乗り越えるような事態だけは、なんとしてでも避けねばならず、とにかく最終防衛線を死守することだけに全精力を傾けたのであります。


幸いなことに、その前日にお客さんがうちに泊まりにきていたので、3人で交代しながら事態に対処しました。
いやあ、助かりました。もし一人だけだったら、とてもじゃないけどもたなかったよ。
モンゴルに来た翌日にこんなアクシデントが起きてしまって申し訳なく思っていたのですが、愚痴一つこぼさずに手助けしてくれて、ほんと救われたような気持ちになりました。


もちろん、朝一番にアパートの管理組合に連絡しましたよ。
でもね、事態のたいへんさを幾ら訴えても朝9時からしか仕事ができないの一点張りなんです。
融通は聞かない、時間通りに絶対来ないとはわかっていても、とにかくしつこいくらい何度も電話をかけまくりました。
分かってはいても、やっぱり腹が立つよね。
早朝からずーっと、トイレ作業と電話連絡の繰り返しで憔悴しきったところで、結局、修理人が来たのは午後4時、地下室の汚水パイプの詰まりを直して何事もなくなりました。


修理が終わって、改めて風呂場とトイレを掃除した後は、心底ぐったりしました。
激しい徒労感と共にベッドに倒れこんだのであります。

ウランバートルで8回引越しをしましたが、こんなことは初めてでありました。
もう二度と経験したくないです、ほんと。
今もあの時のことを思い出して気持ち悪くなってきました。


アパートの一階は家賃が比較的安いのですが、やっぱりリスクが大きいです。
今は五階に住んでいるので、快適であります。